「データを人質に取られ、復旧したければ金銭を払え」と迫る攻撃は、組織向けの脅威として長年上位に位置づけられ、警察庁への被害報告も高い水準で続いています。専門知識がなくても要点がつかめるよう、ランサムウェアの正体・どこから入ってくるのか・何をすれば被害を防げるのかを、順を追ってやさしく整理します。
対象読者:中小企業の情報システム担当の方、経営層、そして「言葉は聞くけれど中身はよく分からない」という方。専門用語は初めて出てきたときに一言かみくだいて説明します。
ランサムウェア(ransomware)は、「ransom(身代金)」と「software(ソフトウェア)」を合わせた言葉です。感染すると、パソコンやサーバーの中にあるファイルを暗号化して開けなくしたり、画面をロックして操作できなくしたりします。そのうえで「元に戻したければ金銭を払え」と要求してくる、悪意のあるプログラムの総称です。
たとえるなら、会社中の書類を勝手に金庫に入れて鍵をかけ、「鍵が欲しければお金を払え」と言ってくるようなものです。書類(データ)自体はそこにあるのに、業務では使えなくなる――この「使えなくする」ことで身動きを取れなくし、金銭を引き出すのが狙いです。
支払いに使われる金銭は暗号資産(仮想通貨)であることが多く、追跡を逃れる狙いがあります。攻撃者は世界中に分散し、攻撃の道具を貸し出す「サービス化(RaaS:Ransomware as a Service)」も広がっているため、高度な技術を持たない者でも攻撃に加わりやすくなっている、と指摘されています。
多くのランサムウェア被害は、いきなりデータが暗号化されるわけではありません。攻撃者は、まず組織内に静かに侵入し、内部を調べて広がってから、最後にまとめて暗号化・脅迫を仕掛けます。代表的な流れは次の5段階です。
攻撃者が組織に入り込む「入口」は、おおむね次の3つに集中していると報告されています。
・フィッシングメール:実在の取引先や配送業者になりすました偽メールで、不正な添付ファイルやリンクを開かせ、最初の足がかりを作ります。
・VPN機器・RDP(リモートデスクトップ)の脆弱性・弱い認証:在宅勤務などで使うリモート接続の機器に、修正されていない脆弱性(プログラムの欠陥)があったり、推測されやすいパスワードだったりすると、そこを突かれて侵入されます。近年の国内被害ではこの経路が特に多いとされています。
・不正アクセス:どこかで漏れたID・パスワードの使い回しや、総当たりでのログイン突破などで、正規の入口から堂々と入られるケースです。
侵入後、攻撃者はすぐに暗号化はしません。まず管理者の権限を奪い、社内の他のPCやサーバー、バックアップ装置の場所を調べ、被害を最大化できるよう静かに横へ広がります(横展開)。この段階で見つけて止められれば、被害は大きく抑えられます。
十分に広がったところで、一斉にファイルを暗号化して業務を止め、「復号鍵が欲しければ身代金を払え」という脅迫文(ランサムノート)を表示します。
近年の主流は二重恐喝(英語では double extortion)です。暗号化する前にデータを盗み出しておき、「払わなければ盗んだデータをインターネット上に公開する」と追加で脅します。これにより、たとえバックアップから復旧できても「情報漏えい」のリスクが残るため、被害者にさらに強い圧力がかかります。
ランサムウェアは、日本国内で長く件数の多い被害類型の一つとして注意喚起され続けています。IPA(情報処理推進機構)が毎年公表する「情報セキュリティ10大脅威」でも、組織向けの上位常連として取り上げられています。警察庁も、企業・団体からのランサムウェア被害の報告を継続的に集計・公表しています。
近年の傾向として、次の点が繰り返し指摘されています。
・侵入経路はVPN機器やリモート接続が多い:警察庁の集計では、被害企業・団体への侵入経路としてVPN機器・RDP経由が大きな割合を占めると報告されています。
・規模を問わず被害が出ている:大企業だけでなく、中小企業や医療・自治体など幅広い組織で被害が確認されています。
・二重恐喝が一般化:暗号化に加えてデータ窃取・暴露を伴う手口が主流になっています。
※ 本記事では特定の企業名を挙げての断定は避けています。最新の件数・割合などの数値は、下記「参考情報・出典」の各機関が公表する最新版をご確認ください。
「これさえやれば絶対に防げる」という単一の対策はありません。複数の備えを重ねて、入られにくくし・広げさせず・万一でも復旧できる状態を作ることが目標です。まずは上の 優先度:高 から着手することをおすすめします。
基本の対策チェックリスト
感染時の初動対応
公的機関は一般に、身代金の支払いを推奨していません。主な理由は次のとおりです。
・払ってもデータが完全に戻る保証はない(復号できない・一部しか戻らない例がある)。
・支払いは攻撃者の活動資金になり、新たな攻撃を助長する。
・「払う組織」とみなされ、再び狙われるリスクがある。
・二重恐喝では、払っても盗まれたデータが本当に削除された確証は得られない。
そのため、支払いを検討せざるを得ない状況に追い込まれないよう、事前のバックアップと多要素認証に投資しておくことが、結果的に最も合理的です。
ランサムウェア対策は、高価な製品を一つ入れて終わり、というものではありません。私たちは、「入られにくくする」「広げさせない」「復旧できる」の3点を、いまの組織の体制・予算に合わせて優先順位をつけて積み上げることが、最も現実的だと考えています。まずは「バックアップは本当に切り離せているか」「リモート接続に多要素認証はかかっているか」の2点を確認するところから始めてみてください。
「何から手をつければいいか分からない」「いまの対策で十分か診断したい」――そんなときは、お気軽にご相談ください。現状にあわせて、優先順位を一緒に整理します。
相談・お問い合わせはこちら※ 各機関の公開ページにリンクしています(2026-06-23 時点で確認)。被害件数・割合などの数値を引用する際は、各機関が公表する最新版をご確認ください。